井伏鱒二の『焼物雑記』
夕方ポストに入った本。
タイトルからすると陶芸やその作品にかんする上品な随筆かと思わせるが
なかみはズバリ骨董を求めての旅と人間模様。
モノを前にして沸騰してくる欲望をあらわにしてすこぶる痛快。
古陶(おおくは備前ですが)に魅せられた文人たちの欲と二人連れの道行きは、
井伏の脂ののった筆に乗り、
モノを前にして舌なめずりしている人々のてらてら顔まで浮かんできて、
事実に即した随筆か、はたまた小説かとう壁が「いけいけ」で
なんとも心地よいのです。
昭和39年から58年にかけて発表された12の小品を編んだものですが
これは編集もうまいと感じ入りました。
この本は装丁もまたかなか上品で、紙面の落ち着きも素晴らしい。
文化出版局ですか。この時代はよかったんですね……。
それにしても人はモノの前でどうしてこう狂うのか……。
そんなこんなで機嫌良く夜を迎えたのですが
老母が就寝前にレビー小体特有の妄想を久々に爆発。
追加投薬してなんとかその場を収めましたが
なんともやるせない徒労感のうちに一日を終えそうです。