『古老の人生を聞く』宮本常一ふるさと選書
民俗学者の(こういういいかたが当を得ているのか迷いますが)宮本常一は
今を生きる個人、景観、あるいは民具などに伝えられた民俗知の世界を通して、
日本史を見直すという、アカデミズムとは最も遠く、また迂遠とも思えるような方法を
徹底的なフィールドワークと文学的感性で貫徹し表現した人物と思いますが、
とくに地元大島関連の聞き取りに絞って編んだ叢書が企画され、
その第一集が刊行されたことを知って、さっそく注文してみました。
いずれもその膨大な著作集に入っているので、既読のものではありますが
ハンディな形で、座右に置いて珠玉の名作を読むことができるのは
とってもありがたいことと思います。
「ふるさと選書」のネーミングは地元の若い世代の方に読んで欲しいという思い
からでしょうか。ものごとと人の見方をこの島で学んだ宮本らしく、
地元についてほんとうにたくさん書いていますね。
カバーは宮本が少年の頃に描いたスケッチがあしらわれているのですが
これがなかなか珍しいものと感じるとともに、後年の「宮本写真」の片鱗
がすでにうかがわれるように思いました。
このカバーを外した表紙の写真がまた秀逸で、
いつもながら、いろんなことを気づかせ、考えさせるものです。
カバーと響き合うかたちになっているのもいいですね。
民俗学が文献史学とも考古学と異なるのは、今を生きている目の前の人間
を相手にしないといけない所にあり、それだけに聞く者にも傾聴する技術、
話の真偽をみわける幅広い知識と経験、人間力が必要になってきます。
それととも、それらを細切れにすることなく、どうまとめどう読ませるかという
いわば編集力も不可欠です。宮本常一はそのどれをとってうならせます。
こういう本を根気よく出して下さっているみなさんに感謝です。